解説を「あえて」つくらない理由
解説を、あえてつくらない理由
「YOKAROには、全部に解説がない」
これを知って、少し不安になった方もいるかもしれません。ほかの問題集サイトなら、当たり前のようについている解説。それをYOKAROは、あえて完全には用意していません。
不親切に思われるかもしれませんが、これは手が回っていないからではなく、意図的な設計です。今日はその理由を、少し長くなりますが、お話しさせてください。
「わかりやすい解説」は、本当にあなたを合格させるか
医師国家試験等の問題集サイトは「解説の質」を競っています。図解が丁寧か、専門用語が噛み砕かれているか、読みやすいか。もちろんそれ自体は悪いことではありません。
けれど、少し立ち止まって考えてみてください。あなたが本当に必要としているのは「良い解説を読む力」でしょうか。それとも「本番で、自分の頭だけでその場の答えを組み立てる力」でしょうか。
YOKAROが向き合いたいのは、後者です。そして、良い解説を読み続けることと、自分の頭で組み立てる力を鍛えることは、実はイコールではありません。
解説を書けるのは、現役生だけ
YOKAROでは、解説はスタッフだけではなく、多くは現役の受験生に作っていただいています。理由は単純です。今まさに苦しんでいる人、あるいは苦しみ抜いた直後の人にしか書けない解説があるからです。
何年も前に合格した人の解説は、たしかに知識としては正解を導けるでしょう。しかし、そこには「今の自分がどこでつまずいているか」という当事者の視点が抜け落ちがちです。逆に、今まさに同じ壁にぶつかっている受験生が書いた解説には、「ここが分かりにくい」「自分はこう覚えた」という、教科書には載っていない実感がこもります。
以前に、ある受験生から私達のサイトの「解説が大したことがない」とご指摘をいただいたことがあります。よくサイトの内容をみていただいたからこそ頂ける非常にありがたいご意見です。私は「そのとおりです!」と言いたいです。なぜなら解説は完璧じゃない受験生が作ったからです。その受験生は大したことがない解説をみながら予備試験を1発合格していました。これは矛盾ではないのです。解説が大したことがないから深く考えるんです。AIではない解説が読めるその事自体に合格の秘訣があるんです。
YOKAROが解説を「あえてつくらない」というのは、解説を書く役割は、受験生自身に開かれているからです。
「教える」と、二度学べる
ここで一つ、心理学の話をさせてください。
「プロテジェ効果(protégé effect)」という現象があります。誰かに何かを教える経験をすると、教えた本人の理解が深まるという効果です。作家ロバート・A・ハインラインの言葉を借りるなら、「人に教えるとき、二人が学ぶ」ということになります。この学習法自体は新しいものではなく、「教えることによって、我々は学ぶ(docendo discimus)」という言葉が、古代ローマの哲学者セネカに由来するとも言われています。
2014年、心理学者ジョン・ネストイコらが行った実験では、「あとで人に教える」と伝えられて教材を学んだグループと、「あとでテストを受ける」とだけ伝えられたグループを比較しました。教える予定だったグループは、より丁寧に読み込み、自分の説明を何度も練り直し、学習全体への集中度も高くなりました。そしてテストの結果、教える予定だったグループのほうが、特に難しい問題で明確に高い成績を出しています。成績が振るわなかった生徒でも、教える経験があると、普段は成績の良い生徒と同じ水準まで到達したケースも報告されています。
さらに2018年、コーらの研究チームは、この効果が「テスト効果(testing effect)」の一種ではないかと考え、検証しました。ドップラー効果について学んだあと、「メモを見ずに教える」「メモを見ながら教える」「教えずに自分で思い出す練習をする」「何もしない」という4グループに分けて1週間後にテストしたところ、メモを見ずに教えたグループと、教えずに思い出す練習をしたグループが、他のグループより良い成績を残しました。
ここから見えてくるのは、「教える」という行為そのものより、「自分の頭の中から、何も見ずに情報を引き出す」というプロセスこそが、記憶に効いているという可能性です。
解説を書くことは、最高の「アウトプット練習」
心理学にはもう一つ、「生成効果(generation effect)」という考え方があります。人は、与えられた情報を読むよりも、自分の力で作り出した情報のほうを、よく覚えているという現象です。1978年にスラメッカとグラフが最初に報告して以来、数多くの実験で再現されており、脳の活動を調べた研究でも、自分で考えて答えを生成しているときのほうが、ただ読んでいるときより、記憶に関わる脳の領域が活発になることが分かっています。
さらに、繰り返し読み返す「再読」よりも、思い出そうとする「想起」のほうが記憶の定着に効くという「テスト効果」も、100年以上前から研究されている、学習科学ではよく知られた現象です。心理学者ロディガーとカーピキが2006年に発表した研究では、教材を4回読み込んだグループと、1回読んだあと3回思い出すテストを受けたグループを比較したところ、直後のテストでは前者がやや良い成績でしたが、時間が経ってからのテストでは、思い出す練習をしたグループのほうが大きく上回りました。
「解説を書く」という行為は、この生成効果とテスト効果を、同時に働かせる行為です。ただ問題を解いて答え合わせをするだけでは終わらず、その根拠を自分の言葉で組み立て直し、人に伝わる形でアウトプットする。これはハイライトを引いたり、模範解答を読み返したりするのとは、まったく違う種類の負荷を脳にかけています。
責任を持って人に見せる、ということ
もう一つ、YOKAROが大事にしているのは「人に見せる」という緊張感です。
自分だけのメモなら、多少あいまいなままでも許されます。しかし「みんなのコメント」や解説として、他の受験生の前に出すとなると話は違います。間違った知識を書けば、誰かを惑わせてしまうかもしれない。その責任感が、「なんとなく分かった気になっている状態」を、「本当に理解できている状態」へと押し上げてくれます。
プログラマーの世界には「ラバーダック・デバッグ」という手法があります。行き詰まったとき、机の上のアヒルのおもちゃに向かって、コードを一行ずつ声に出して説明する。すると、説明している途中で、自分の勘違いに気づくというものです。相手が人間であってもアヒルであっても、「説明しようとする」こと自体が、思考を整理させてくれます。
YOKAROで解説を書くという行為は、いわば「等身大の受験仲間に向けた、少し本気のラバーダック・デバッグ」です。
解説を書くと、あなたの育成キャラクターが育つ
YOKAROでは、問題を解いた数に応じて「がんばり度バッジ」の階級が上がっていきますが、それとは別に、解説の作成やコメントでの貢献に応じて「育成レベル」が上がる仕組みも用意しています。
これは単なるゲーム性のための飾りではありません。「解説を書く」という、本来なら少し腰の重い行為に、もう一段の動機づけを添えるための工夫です。あなたが誰かのために書いた1つの解説が、あなた自身の理解を深め、同時にあなたのキャラクターも育てていく。この二重の手応えを、感じてもらえたらと思っています。
YOKAROが「解説やサポートを基本的にしない」理由
最後に、少し踏み込んだ話をします。YOKAROも、そして15年以上の歴史を持つProexも、一貫して大切にしてきたのは「学習の場を提供する」という一点です。運営側が手厚い解説やサポートを用意することは、実は難しいことではありません。けれど、それをしてしまうと、受験生から「自分で考えて、自分で言葉にする」という、一番大事な訓練の機会を奪ってしまいます。
医師国家試験予備試験は、広範な医学知識に加えて、口頭で自分の考えを的確に伝える力まで問われる試験です。誰かが完璧に整えてくれた解説を読み続けるだけでは、その力は鍛えられません。
YOKAROが用意するのは、場所と、仕組みと、少しの動機づけだけです。そこに何を積み上げていくかは、あなた自身の手に委ねられています。
参考文献・出典
参考文献・出典
- Nestojko, J. F. et al. (2014). Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42(7), 1038-1048.
- Koh, A. W. L. et al. (2018). The learning benefits of teaching: A retrieval practice hypothesis. Applied Cognitive Psychology, 32(3), 401-410.
- Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592-604.
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249-255.